「面接でMBTIを聞かれた」「エントリーシートにMBTIの記入欄があった」——ここ数年、こうした話をよく聞くようになりました。
先に結論を書きます。MBTIを採用選考の判断材料にするのは不適切です。 これは倫理的な話だけでなく、開発元の公式方針であり、かつ技術的にも成立しません。
ただし、入社後の相互理解の道具としてなら十分に使えます。 この記事では「なぜ選考に使えないのか」と「では、どこでなら使えるのか」の線引きを書きます。
開発元が選考への使用を認めていない
MBTIの権利を持つThe Myers-Briggs Companyは、採用・選抜の目的でMBTIを使用しないことを一貫して表明しています。公式に認定された実施者向けの倫理規定でも、この用途は明確に外されています。
理由は単純で、MBTIはもともと「人を選別するための道具」として作られていないからです。作られた目的は「自分と他人の理解の仕方の違いを説明すること」。優劣を測る物差しではないので、「この人を採るべきか」という問いに答える構造を持っていません。
なお、ネット上にある無料のMBTI診断(当サイトのタイプ診断を含みます)は、公式のMBTI検査そのものではありません。公式検査でないものを選考に使うのは、なおのこと根拠がありません。
選考に使えない技術的な理由
倫理を脇に置いても、選考の道具としては次の問題があります。
1. 回答を簡単に操作できる
MBTIの設問は、どう答えればどの結果になるかが直感的に分かります。「協調性を見られている」と察した応募者はF寄りに、「リーダーを求めている」と察すればE・T・J寄りに答えます。選考の場という時点で、正直な回答が集まる前提が崩れます。
2. 再テスト時に結果が変わる
MBTIは、同じ人が時期を変えて受けると4文字のうち1文字が入れ替わることが珍しくありません。特に境界に近い軸ほど不安定です。数か月で変わりうる指標を、その人の適性の証拠として扱うことはできません。
このブレの仕組みについてはMBTIは当たらないと感じたときで詳しく書いています。
3. 職務成績との関係が確認されていない
「ENTJは営業成績が良い」「ISTJは経理に向く」といった話には、それを裏づける一貫した根拠がありません。適性を予測する目的の検査は別に存在し、そちらは予測の妥当性を検証したうえで作られています。MBTIはその検証を経ていません。
4. 差別的な選別につながりうる
内向型を「コミュニケーション能力が低い」と読み替えて落とす。F型を「情に流される」として管理職候補から外す。性格タイプを理由に機会を制限すれば、実質的に不合理な選別です。 タイプは業務遂行能力ではありません。
応募者の立場で聞かれたらどうするか
面接でMBTIを聞かれた場合、答えること自体に問題はありません。ただし4文字だけを答えて終わらせないのが実務的です。
「診断ではINFPと出ました。ただ結果そのものより、そこで指摘された『一人で集中する時間が要る』という点が実感に合っていて、前職では午前中を資料作成に充てる形で組み立てていました。」
タイプを言うだけだと、面接官の側の勝手なイメージで解釈されます。タイプ→自分の働き方の具体例、まで一続きで話す。 これなら、相手が持っている偏見に引きずられにくくなります。
逆に、MBTIの結果を重く扱う姿勢を見せる会社であれば、その会社が人を何で見ているのかの情報として受け取っておくことです。
入社後なら、こう使える
ここからが本題です。選考では使えませんが、すでに一緒に働いている人同士の相互理解になら、MBTIはかなり有効です。 選考との決定的な違いは、「本人の同意のもとで、本人が自分について語るために使う」という点にあります。
使ってよい形
- 全員が自分のタイプを自己申告し、公開するかどうかも本人が決める
- 配属や評価には一切使わないと最初に明言する
- 結果を「その人の説明書」ではなく、「その人が言いにくかったことを言うきっかけ」として扱う
具体的に効く場面
新メンバーのオンボーディング。 「指示は口頭とテキストどちらが助かるか」「まず全体像から知りたいか、手順から知りたいか」——これはS/N軸の話です。最初の1週間で聞いておくだけで、その後の食い違いが激減します。
1on1の設計。 I型の部下に「何か困ってることある?」とその場で聞いても出てきません。議題を事前に共有しておくと、I型からは質が違う話が出てきます。 これは能力差ではなく、考えをまとめる場所が内側か外側かの違いです。詳しくは上司と部下の関係に書きました。
フィードバックの伝え方。 同じ指摘でも、T型には「何がどう基準に届いていないか」を先に、F型には「あなたの意図は分かっている」を先に置くと通ります。順序を変えるだけで、伝わり方が変わります。→伝え方をタイプに合わせる
チーム編成の会話。 ここは注意が必要です。「ISTJだから細かい作業を任せる」は配属への流用であり、やってはいけません。使ってよいのは「この進め方だと誰が苦しくなるか」をチームで話し合う材料としてです。→職場・チームでの使い方
経営者・人事の立場での判断基準
判断に迷ったら、次の質問を自分にしてください。
その人が結果を知られたくないと言ったとき、不利益が発生するか。
発生するなら、それは選別への流用です。発生しないなら、相互理解の範囲に収まっています。
もうひとつ。
同じ判断を、性別や年齢を根拠に下したら問題になるか。
問題になるなら、性格タイプを根拠にしても同じことです。
適性検査との違いを理解する
採用の場面で使われる検査には、目的の異なるものがいくつかあります。MBTIをそこに混ぜてはいけない理由が、この違いから分かります。
適性検査は、職務での成果を予測することを目的に作られています。開発の過程で、検査結果と実際の職務成績の関係が検証されています。予測の精度が確認されているからこそ、選考の材料になりえます。
能力検査は、特定の能力の水準を測ります。言語、数理、論理。これも職務との関係が検証されています。
MBTIは、この検証を経ていません。作られた目的が「自分と他人の理解の仕方の違いを説明すること」であるため、職務成績を予測する構造を持っていません。
つまり、MBTIを選考に使うことは、目的外の使用にあたります。物差しとして作られていないものを、物差しとして使っている状態です。
さらに、回答を操作できる、時期によって結果が変わるという性質があります。選考の場という時点で、正直な回答が集まる前提が崩れます。
面接で聞かれたときの答え方
面接でMBTIを聞かれた場合、答えること自体に問題はありません。ただし、答え方には工夫の余地があります。
四文字だけを答えないでください。 タイプ名だけを言うと、面接官が持っている先入観で解釈されます。内向的だからコミュニケーションが苦手、といった誤った推論をされる可能性があります。
具体的な働き方まで一続きで話してください。 「診断ではこう出ましたが、実際の仕事では、こういう進め方が合っていて、前職ではこう組み立てていました」。この形なら、相手の解釈に委ねる余地が減ります。
タイプを断定しないでください。 「そう出ました」という言い方であれば、事実としても正確です。
質問の意図を確認してもよいでしょう。 「どのような点を知りたいかによって、お話しする内容を変えられます」。これは失礼にはあたりません。
そして、MBTIの結果を重く扱う姿勢を見せる会社であれば、その会社が人を何で見ているかの情報として受け取っておいてください。判断材料のひとつになります。
使ってよいか判断する二つの質問
組織でMBTIを使うかどうかを判断するとき、二つの質問で線が引けます。
その人が結果を知られたくないと言ったとき、不利益が発生するか。 発生するなら、それは選別への流用です。発生しないなら、相互理解の範囲に収まっています。
同じ判断を、性別や年齢を根拠に下したら問題になるか。 問題になるなら、性格タイプを根拠にしても同じことです。
この二つで判断すれば、使ってよい範囲を誤りません。
実務的には、次の形であれば問題が生じにくくなります。全員が自己申告し、公開するかどうかも本人が決める。配属や評価には使わないと最初に明言する。結果を「その人の説明書」ではなく「その人が言いにくかったことを言うきっかけ」として扱う。
逆に、次の形は避けてください。人事が結果を保管する。配属の参考にする。上司だけが部下の結果を知っている。タイプごとの傾向を人事評価の材料にする。
入社後すぐに効く三つの調整
選考では使えませんが、入社後には有効な場面があります。効果が出やすい順に挙げます。
指示の粒度の調整。 最初の一週間で「まず全体像から知りたいか、手順から知りたいか」を聞くだけで、その後の食い違いが大きく減ります。S/N の話です。
フィードバックの順序。 同じ指摘でも、何を先に言うかで届き方が変わります。基準に届いていない点を先に言うか、意図は理解していると先に言うか。T/F の話です。
面談の形式。 議題を事前に共有するかどうかで、出てくる内容の質が変わります。考えをまとめてから話す人にとって、その場で聞かれても答えは出ません。E/I の話です。
この三つは、いずれもタイプ名を使わずに実行できます。相手の傾向を観察して、それに合わせるだけです。
タイプを聞くより、この三つを全員に対して丁寧にやるほうが、結果的に効果が大きくなります。→ 職場でMBTIをどう使うか
選考以外で使える場面
採用選考にMBTIを用いることは推奨されません。一方で、採用に関わる周辺の場面では使える余地があります。
入社後の受け入れ設計。 本人が希望した場合に限り、伝え方や業務の組み立てを調整する材料になります。選考ではなく配属後であること、本人の同意があることが条件です。
面接官側の自己認識。 面接する側の傾向を把握しておくと、評価の偏りに気づけます。自分と似た傾向の候補者を高く評価してしまう傾向は、広く知られています。
求人票の記述の見直し。 「裁量が大きい」「変化が速い」といった表現が、どんな働き方を意味するかを整理する材料になります。条件が明確になれば、入社後の不一致が減ります。
面接での質問設計。 候補者を分類するためではなく、働き方の条件を具体的に確認するための質問を作る材料として使えます。
いずれも、候補者を測る用途ではありません。この線を越えないことが、使ってよい範囲の条件です。
よくある質問
Q. 面接でMBTIを聞かれました。答えるべきですか
答えて構いません。ただし四文字だけでなく、具体的な働き方まで一続きで話してください。
Q. エントリーシートに記入欄があります
記入すること自体に問題はありません。ただし、その会社が人を何で見ているかの情報として受け取ってください。
Q. 内定後の配属決定に使われるのは問題ですか
本人の同意なく使われるなら、選別への流用です。問題があります。
Q. 研修で使うのは問題ありませんか
相互理解の範囲であれば有効です。結果を人事が保管したり、評価に使ったりしなければ問題ありません。
Q. チーム編成の参考にしてもいいですか
「このタイプだからこの役割」は流用です。「この進め方だと誰が苦しくなるか」をチームで話す材料としてなら有効です。
Q. 適性検査との併用はどうですか
適性検査は目的に沿った使い方です。MBTIをそこに混ぜる必要はありません。
Q. 入社後にどう活かせますか
指示の粒度、フィードバックの順序、面談の形式。この三つが効きます。→ 上司と部下のMBTI
Q. 自分のタイプを知りたいのですが
→ 40問のタイプ診断 で確認できます。
まとめ
- 採用選考にMBTIを使わない。 開発元も認めておらず、操作可能で、時期により変動し、職務成績との関係も確認されていない
- 入社後、本人の同意のもとでの相互理解には使える。 特に指示の粒度(S/N)とフィードバックの順序(T/F)で効果が出やすい
- 「本人が結果を隠したら不利益が出るか」で、使ってよい範囲かどうかを判断する
MBTIの他の使い道はMBTIを実際に使う12の場面にまとめています。自分のタイプがまだ分からない場合は40問の診断から。
次に読む
- 職場でMBTIをどう使うか — 選考ではなく日々の運用で使う形
- 上司と部下のMBTI — 指示が伝わらない原因を軸で特定する
- 転職・適職選びでMBTIを使う — 職業リストを労働環境の条件に翻訳する
- MBTIタイプ別・伝え方の変換表 — 依頼・指摘・断りの伝え方
- 40問のタイプ診断 — 軸ごとの強さまで表示されます
